高知に行ってきた。
中土佐町の久礼にある
「大正町市場」で
この季節しか食べられないメジカの新子の取材。
ぎっくり腰になった大大大先輩Kさんのピンチヒッター。
某誌ナンバーワンの知性派ライターKさんの代役を引き受けるなんて
図々しいにも程があるのだけど、
高知に旅したいだけの理由で、「行きます行きます!」と名乗りを上げたのだ。
高知には過去10回ぐらい行っている。
四万十川をカヌーで下って溺死しそうになったり、
鮎だらけの仁淀川の支流で泳いだり、
カヌーイストの野田知祐さんをインタビューしたり、
今は亡き川漁師の弥太さんとひまわり咲く道を歩いたり、
お遍路で100km以上ひとり旅したり、
誰もいない離島で仲間たちとキャンプしたり・・・・。
あんなこと、こんなこと、懐かしい恋のひとつもあったりして、
私の旅の思い出のかなり濃い部分を占めている。
どの夏も、戻りガツオの味みたいに濃厚だったけど、
今回久しぶりに行った高知は、
これまでの旅とはまたひと味違って、素晴らしかった。
「こんなに海が青いのは、高知でも珍しいですよ」
高知在住のカメラマンMさんがいう。
沖縄みたいに青い海、
いま飛び込んで魚たちと泳げたら、どんなにいいかと思った。
その日の午前中に揚がった魚を
漁師のおかみさんがその場でさばいて刺し身にしてくれる。
メジカの新子、
わが生涯ナンバーワンの旅の味になった。
すりおろしの「すみかん」の酸味と混ざり合うと、
なんともいえない幸せなごちそう。
この魚は足が早いので、
高知でもこの界隈でこの時期しかおいしく食べられないらしい。
東京からわざわざ食べにくる人もいるそうで、
私も、いつかまた食べにいこうと思った。
市場から徒歩3分の漁港がまた最高で、
早朝から漁を終えた漁師のおんちゃんたちが、
涼しいベンチに座って、みんなでただ海を眺めている。
話を聞くためにこわごわ近寄ったら、
「暑いね~。まぁ、座りや」
昔からの知り合いみたいにさりげない挨拶。
この垣根のなさ、
このひとことで、このおんちゃんにひとめ惚れでした。
話していたら、
そのおんちゃんこそ、久礼でいちばんのメジカ釣り名人で
なんと、市場で話したおばちゃんのご主人。
秀海おんちゃんは、
そのまま俳優になってもいいくらい、味のある男前で、
80歳なのに、朝3時半からたったひとりで沖まで漁に出て、
その日は200匹もメジカを釣り上げたらしい。
とんちんかんな私の質問(魚無知)にもやさしく答えてくれる。
漁師ってかっこい~と思った。
与那国島で3か月暮らした久部良を思い出すような
ほんとうにステキな漁港だった。
今朝は、朝8時半から
そのおんちゃんが漁から帰ってくるのを待っていた。
大漁だった昨日は9時に戻ってきたらしいけど、
今日は待てども待てども帰ってこない。
ほかのおんちゃんたちが
「今日は漁がないから遅くまでとってるんやろ」
とのんびりいう。
急ぐ必要もないので、突堤に寝転がって昼寝。
あぁ、懐かしい。
こんなに青い空とちゃぷちゃぷ揺れる波の音。ゆっくり流れる時間。
11時ごろ、昨日のおばちゃんがリヤカーを持って現れた。
おんちゃんの船から電話があって、もうすぐ港に戻ってくるらしい。
船が戻ったら、その足で市場に運んで、
とれたてをさばいてお客さんに売るのだ。
なんてシンプルな商いなんだろう!
リヤカーを運ぶふたりの後ろ姿に
ちょっと泣けそうになりました。
地に足がついた幸せって、こういうことなんだね。
Kさんのような深みのある原稿は到底書けないけれど、
せめて読んだ人が、久礼を旅して
秀海おんちゃんの釣った魚を食べたくなるような文章を書きたい。