もう先週の日曜の話になるけれど、
その午後、私は、笹塚駅前で一軒のカフェを探していた。
おいしいコーヒーでほっと一息つくために。
ちがうちがう。
4月20日に出る雑誌『b*p』のお仕事特集の中で
「カフェを開く」という小さな小さな記事に出てくれる
カフェオーナーを探していて、
電話取材でもできるんだけど、
写真を撮る必要もあったから、
「近場でさくっと訪ねていけるカフェはないかな~」と
ヤフーで検索したら、
笹塚駅前に「CAFE COHO」という店があることを知ったのだ。
「神のロマーノ、楽園のカフェニコ。
東京最高のエスプレッソのひとつ」
その記事の中には、
かっこいいイタリア製のエスプレッソマシーンを置いた店内や
洒落た外観写真、住所や営業時間、
店長さんがどんな思いでカフェを開こうと思ったかも詳しく載っていた。
駅前にそんなカフェあったっけ・・・?
まったく記憶にないけど、
私はわりと、犬の散歩のように同じルートしか歩かない人間なので、
知らないうちにわが街にもお洒落カフェができていたんだろうと思った。
徒歩50秒の駅前で取材ができるなら話は早い。
とりあえず外観だけちら見してこようと、
プリントアウトした記事を手に、
仕事中のすっぴん、ぼさぼさ頭のひどい格好で
ぶらっと駅前に出た。
しつこいけど徒歩50秒なので、
駅前を歩くときの私は、まるっきし無防備。
寝て起きたまんまのジャージ姿でうろつくこともある。
(笹塚駅前で私を見ても、絶対に見なかったことにしてください)
・・・・でも、何度ぐるぐる探しても、ないんだ。その店が。
たまたますれ違った板前さんふうの男性に声をかけ、
コピーした住所を見せて、道を聞く。
地元で道を聞くのって、なんか不思議だ。
煙草をくわえながら道を歩いていたその人は
劇団でもやってそうな渋い兄さんで、
「この住所なら、このへんのブロックなんだよなぁ。
オレも気になるから、ちょっと探してみよう」
。。。。。知り合いのマンションのおじさんの所まで行って
熱心に聞いてくれた。
その人の渋い顔のわりに妙に長いまつげと、
右手でどんどん短くなっていく煙草を交互に見ながら、
あぁ、なんで私はこんな小汚いすっぴんジャージ姿なのか・・・と思う。
いや、
スカートはいて化粧していたからって何も変わらないんだけど、
こうやってずぼらな日々を続けていたら、
出会いの芽も物語も、なにも生まれるまい。
まぁ、結局、
「このへんだと思うから、もう少し探してみて」
と、しばらくしてその人とは別れた。
このへんかな・・・と私はさらに
玉川上水ぞいの遊歩道も歩いた。
携帯電話を持たずにふらっと出てきたので、
電話もかけようがない。
リリー・フランキーのおかんが好きだったという笹塚の桜並木も
はじめて見た。
でも、そこには満開の美しい桜があるだけで、カフェはなかった。
一刻で入稿を争う時期に、
小一時間、駅前をぐるぐるぐるぐる探しただろうか。
京王線のガードの下も、マンションの裏側も。
どうしても見つからなかった。
どこにあるのだろう、CAFE COHO。
家に帰って、電話をした。
「・・・▲■●です」
「カフェCOHOさんですか」
「違います。なんかよくかかってくるんですけど、
その店、もう何年も前に閉店したみたいですよ」
たったそれだけの話。
ごめんなさい、あんまりオチらしいオチもなく。
でも、幻のカフェを探して歩いた1時間は、
なんだかすごくわくわくして
不思議な時間だった。
徒歩50秒圏内なのに、遠い遠い場所を旅してきたみたいに。